技術情報

【連載】深海ライラの音響空間ノート(第3回)

組み立てる音響空間 ― 無響室・防音室・無響箱という選択

2026/01/31

「無響室は、一度作ったら終わり」

音響設備の検討に関わっていると、無意識のうちに、こんな前提が置かれていることがあります。

  • 無響室は固定設備である
  • 一度作れば、用途は大きく変わらない
  • 必要になったら大きく作るもの

けれど実際の現場では、測定対象や評価内容は、想像以上の速度で変化します。

  • 開発フェーズの移行
  • 製品サイズや周波数帯の変化
  • 評価精度や再現性要求の見直し

音響空間もまた、使い続けながら設計し直される存在であるべきだと感じます。

音響空間は「大きさ」ではなく「成立条件」で決まる

第2回では、逆二乗則と環境補正の考え方を通して、「測れる音場」の条件を整理しました。

そこから見えてくるのは、自由音場の成立が、

  • 部屋の広さそのもの
  • 無響室という名称

によって決まるわけではない、という点です。

重要なのは、

  • 音源の大きさ
  • 対象とする周波数帯
  • 反射が測定に影響し始める距離

これらを踏まえ、どこまでの空間があれば測定が成立するかを見極めることです。

無響箱という考え方

こうした視点で整理していくと、自然に浮かび上がってくる選択肢が無響箱です。

無響箱は、しばしば「簡易な無響室」や「代替手段」として扱われます。
しかし設計の観点では、少し違う位置づけになります。

無響箱は、

  • 無響室を小さくしたものでも
  • 防音箱を高度化したものでもなく

測定対象に合わせて、自由音場を最小単位で切り出す設計です。

なぜ無響箱が有効なのか

測定対象が比較的小さく、評価したい周波数帯が限定されている場合、

  • 大きな空間を用意する必要はありません
  • 重要なのは、反射が支配的になる前に測定が完結することです

無響箱では、

  • 音源と測定点の距離
  • 吸音構造の配置
  • 開口部や境界条件の影響

を前提として設計することで、必要十分な自由音場を、安定して確保できます。

これは「簡易」なのではなく、目的に対して過不足のない構成だと考えています。

無響室・防音室との関係

無響箱は、単独で使われるとは限りません。

実際の現場では、

  • 防音室の中に無響箱を設置する
  • 無響室の一部を箱状に切り出す
  • 組立式の空間構成の中に組み込む

といった使い方が多く見られます。

ここで重要なのは、無響室・防音室・無響箱が対立する選択肢ではないという点です。

それぞれは、

  • スケールの違い
  • 設計自由度の違い
  • 再現性の取り方の違い

を持つ、同じ設計思想の中で整理される要素です。

組み立てる、という考え方

音響空間を「組み立てる」というと、仮設や簡易といった印象を持たれることがあります。

ここで言う組み立てとは、

  • 目的に応じて構成を選び
  • 必要な性能を切り出し
  • 再現性を確保する

という、設計上の柔軟性を意味しています。

音響空間は、完成した形を見ると「設備」に見えますが、本質は設計の積み重ねです。

構成要素は、すべて設計思想から生まれています

ソノーラが設計する音響空間は、あらかじめ決まった形や製品の組み合わせから発想するものではありません。

まず整理するのは、

  • どのような音場を成立させたいのか
  • そのために、どの要素をどこまで制御する必要があるのか

という設計上の要件です。

その要件に応じて、

  • 自由音場を安定して成立させるための吸音構造
  • 遮音・反射・構造振動を同時に扱うための構造的な考え方
  • 再現性や拡張性を前提とした空間構成の手法
  • 測定対象に合わせて音場を最小単位で切り出す設計

といった要素を組み合わせ、一つの音響空間として成立させていきます。

これらは個別の設備や製品ではなく、同じ設計思想に基づいて整理された「音響空間を構成する部品」です。

ソノーラが提供しているのは「部屋」ではありません

ソノーラテクノロジーが提供しているのは、無響室や防音室という名称の設備そのものではありません。

  • 測定目的を整理し
  • 必要な周波数帯と精度を見極め
  • 吸音・遮音・構造を組み合わせ
  • 再現性のある音響環境として成立させること

この一連の設計と構築を、構想段階から一貫して行っています。

こんな段階からご相談いただいています

実際には、次のような段階でのご相談が多くあります。

  • 無響室が必要かどうか、まだ判断できていない
  • 既存の防音室で測定できるか検討したい
  • 大型設備を作る前に、小さな構成で評価したい
  • 測定結果のばらつきに課題を感じている

こうしたケースでは、最初から設備ありきで考えないことが重要です。

音響空間の検討を、設計から

音響空間は、完成した形を見ると「設備」に見えます。
しかし本質は、設計対象です。

  • 何を測りたいのか
  • どこまでの精度が必要か
  • 将来、用途が変わる可能性はあるか

その問いから、音響空間を組み立てていく。
それがソノーラの考え方です。

音響空間の新設、更新、再検討をご検討の際は、構想段階からお気軽にご相談ください。

—— 深海ライラ

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