技術情報

PA屋からすると「箱」は吸音を効かせたい

――その考え、音響測定ではどう変わる?

2026/02/05

「とにかく箱はデッドなほうがいいんですよ」

これは、あるPAエンジニアの方から伺った率直な一言です。
ライブハウスやスタジオ、仮設PAの現場では、反射音をいかに抑えるかが音作りの成否を左右します。
ハウリングを防ぎ、定位を明確にし、ミックスを“作りやすく”する――
PA屋さんにとって「吸音が効いた箱」は、まさに正義です。

では、この感覚は無響室や音響測定の世界でも、そのまま通用するのでしょうか。

PA視点の「良い箱」とは何か

PA現場で求められる箱の条件を整理すると、次のようになります。

  • 壁や天井からの反射が少ない
  • 残響が短く、音が濁らない
  • マイクに戻ってくる不要音が少ない

つまり、「音を出したら、すぐ消える空間」です。
この意味での“吸音が効いている”は、聴感的・運用的に正しい評価です。

しかし――
ここで一つ、重要な視点の違いが現れます。

無響室が目指しているのは「静かさ」ではない

無響室というと、

  • とても静か
  • 音が吸い込まれる
  • 耳がツーンとする

といった印象を持たれがちです。
ですが、無響室の本質的な目的は「静かさ」ではありません。

無響室の目的はただ一つ「自由音場を成立させること」

自由音場とは、

  • 音源から出た音が
  • 壁・床・天井に反射されず
  • 距離の二乗に反比例して減衰する音場

つまり、逆二乗則が成立する空間です。

ISO 3745:2012 では、この自由音場の成立度合いを

環境補正値 K2 ≤ 0.5 dB

という厳しい条件で評価します。

「吸音を足せば良い」では測定は成立しない

ここで、PA的発想と測定的発想のズレが生まれます。

PA的発想

反射が気になる
→ 吸音材を追加しよう

測定の現場で起こりがちな現象

  • 吸音は増えたが、空間の均質性が崩れる
  • 特定方向だけ吸音が強くなる
  • 音場が歪み、逆二乗則が崩れる
  • 結果として K2 が悪化する

つまり、「デッドに感じる」=「良い測定環境」ではないのです。

ISO 3745:2012 が示した重要な変化

かつての規格(ISO 3745:2003)では、

  • 吸音率 0.99 以上
  • 楔長 λ/4 以上

といった構造仕様が細かく定められていました。

しかし、2012年版ではこれらの付属書が削除され、評価基準は明確にこう変わりました。

「逆二乗則が成立しているかどうか」

つまり、

  • 吸音材の種類
  • 形状
  • 見た目の“デッド感”

ではなく、結果として音場が自由音場になっているかがすべて、という考え方です。

ソノーラが考える「測定のための吸音」

ソノーラの無響室設計では、PA的な「吸音を効かせたい」という感覚を否定しません。

ただし、次のように整理します。

  • 吸音は 目的ではなく手段
  • 重要なのは 音場の成立性(K2)
  • 吸音は「多い・少ない」ではなく「効き方」

そのため、Broadband Fractal構造(BFシリーズ)では、

  • 広帯域での安定した吸音特性
  • 反射の方向性を作らない形状
  • 空間全体の均質性を重視

といった点を設計の軸にしています。

PAの感覚 × 測定の論理

その間をつなぐのが無響室設計

PA屋さんの「箱はデッドなほうがいい」という感覚は、音を扱うプロとして極めて正しい直感です。

ただし、音響測定の世界ではそこにもう一段、

「そのデッドさは、音場として正しいか?」

という問いが加わります。

無響室とは、

“聴いて気持ちいい空間”ではなく、
 “測って正しい空間”を作る技術

です。

その違いを理解したとき、PAと測定、現場と規格は、初めて一本の線でつながります。

まとめ

  • PA視点では「吸音が効いた箱」が正解
  • 無響室では「自由音場が成立している箱」が正解
  • 吸音は量ではなく、音場の均質性が重要
  • ISO 3745:2012 以降、評価軸は逆二乗則に集約
  • ソノーラはその“成立性”を設計で保証する

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