技術情報

音響屋が「測らない」と決めた夜

— My Bloody Valentine のライブへ。高音圧が前提の夜 —

2026/02/10

My Bloody Valentine、このバンドの奏でる音楽はジャンルで言うとシューゲイザーと呼ばれています。
簡単に言えば、ギターのノイズを幾重にも重ねた轟音のサウンドが特徴です。
ライブによっては、130 dB近くに達する大音量が発生すると言われることもあります。(これはないでしょうが)

そのため、個人的にはどの程度の音圧が出ているのかを数値的に確かめてみたいという衝動が以前からありました。

この日は現場帰りでした。
仕事用のバッグの中には、Brüel & Kjær Type 2250――
普段使っている音響測定器が入っていました。
ただし、会場に入る前にロッカーに預けています。

少し補足しておきます。
Brüel & Kjær Type 2250は、音響測定の世界では信頼性の基準として名前が挙がるサウンレベルメータ、端的に言えば精密な騒音計です。
高価な機材なので、誰もが気軽に持ち歩くものではありませんが、私にとっては、現場に向かうとき欠かせない道具のひとつです。

つまりこの日は、持っては来たけれど、使わないと決めた、ということになります。
(なお、ライブ会場にこのような機器を許可なく持ち込むことがNGであることは、当然承知しています。)

ロッカーの扉を閉めたとき、「今日は測らないほうがいいな」と、勝手に自分に言い聞かせました。

向かったのは、東京ガーデンシアターでの公演でした。
ホールとしては規模が大きく、PAの影響も強く出る会場です。

19時の開演を少し過ぎ、待ちに待ったライブが始まります。
私はアリーナの中央付近にいました。

最初の音が鳴った瞬間、「大きい」「うるさい」といった言葉は、あまり意味を持ちませんでした。
音は前から来ているはずなのに、気づけば自分が音の中に立っている。
方向や距離といった感覚が、静かに溶けていきます。

私は普段、ノイズと向き合う仕事をしています。
無響室や半無響室を扱い、測定環境の設計だけでなく、実際の騒音対策も含めて、反射や環境音を抑え、「正しく測れる音場」をつくることが役目です。
音は整理され、再現でき、説明できなければなりません。

ところが、目の前で鳴っている音は、その真逆でした。
どう考えてもノイズの要素を含んでいる。
仕事上、ノイズは敵として向き合ってきた存在です。
それでも、はっきりと音楽として成立している。
その事実に、戸惑いながらも強く引き込まれていきました。

ステージ上では、Kevin Shieldsがおなじみの姿勢でギターを構えています。
途中、音の質感が一瞬だけ変わる場面がありました。
どの曲かは、野暮なので伏せておきます。

音量が下がったわけではありません。
ただ、音の張りがほんのわずかに崩れる。
機材トラブルだと、すぐ分かる変化でした。

それでも不思議なことに、その瞬間を含めて音楽は壊れません。
むしろ「危うい状態で鳴っている」こと自体が、このバンドの音楽として機能しているように感じられました。

私はギタリストでもあります。
歪み過多の音が、どれほど不安定で扱いづらいか。
中域を削った音が、なぜ存在感を失わないのか。
そうした感覚を、理屈ではなく身体で知っています。
だからこそ、この音が偶然ではなく、意図された危うさの上に成り立っていることも理解できました。

大好きなマゼンタ色の照明がステージを覆います。
マゼンタは、ソノーラの企業カラーでもあります。
仕事柄、「音を可視化したら警告色で塗りつぶされるだろうな」などと考えてしまいますが、その考えも、ほどなく手放しました。

この夜は、測らない。
評価しない。
ただ、音を体験する。

今日は音響屋としてではなく、ひとりのリスナーとしてノイズに身を委ねました。

それでも、ロッカーに預けたからこそ聴こえた音が、確かにあった。
そんな感触を残して、会場を後にしました。

次回は、そもそも「シューゲイザー」とは何なのか。
この音楽が、なぜ音響的に成立してしまうのかを、もう少し解説寄りの視点で整理してみたいと思います。

——第2回へ続きます。

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