技術情報

【連載】深海ライラの音響空間ノート(第1回)

無響室と防音室は、最初から分けて考えるもの?

2026/01/20

はじめまして。

ソノーラテクノロジーの公式イメージキャラクターとして、技術情報の案内役を担当している深海ライラです。

日々、無響室や防音室、測定設備に関するご相談を受ける中で、よくこんな「前提」に出会うことがあります。

  • 無響室は“反射をなくす部屋”
  • 防音室は“音を外に漏らさない部屋”

この理解は、決して間違いではありません。

しかし、実際の音響測定や評価の現場では、その定義だけでは足りないことが多いのも事実です。

本連載では、規格や用語の羅列ではなく、「測定や評価を成立させるための考え方」を現場視点で整理していきます。

無響室と防音室は、対立概念ではありません

設計のご相談で、「無響室にすべきか、防音室にすべきか」と問われることがよくあります。

しかしその問いは、多くの場合、少しだけ早すぎます。

なぜなら、現場で本当に問題になるのは「部屋の名称」ではなく、以下の点だからです。

  • 測定結果が安定するか
  • 条件を再現できるか
  • 評価に使える音場か

無響室と呼ばれる部屋であっても、設計が不適切であれば測定結果がばらつくことはあります。逆に、防音室であっても、内部音場が十分に制御されていれば評価は成立します。

音響空間を考えるときの「3つの視点」

ソノーラでは、無響室・防音室・無響箱といった「名称」を決める前に、まずは次の3つの要素を整理することを重視しています。

1. 吸音(Absorption)

反射をどの周波数帯まで、どの程度抑える必要があるか

反射音は測定データのノイズとなります。どこまで厳密な自由音場(Free Field)が必要かによって、吸音層の厚みや形状(クサビ型かフラットか)が決まります。

2. 遮音(Insulation)

外部騒音や周囲環境から、どのレベルで切り離す必要があるか

暗騒音(バックグラウンドノイズ)が高ければ、微細な音の測定は不可能です。外部の音を入れない、または内部の大きな音を外に出さない性能を見極めます。

3. 構造・再現性(Structure & Reproducibility)

同じ条件を、繰り返し再現できるか

床の振動対策、温度・湿度の管理、サンプルの設置方法など、測定の再現性を担保するための物理的な構造です。

これらは独立した要素ではなく、実際の音響空間では同時に影響し合っています。

出発点は「何を測るか」

音響空間の設計で最も重要なのは、最初に次の点を明確にすることです。

  • 対象はどのような音源か(大きさ、周波数特性、指向性)
  • 評価したい周波数帯はどこか(低周波メインか、高周波か)
  • 精度はどこまで必要か(ISO精密級か、社内比較用か)
  • 一度限りの測定か、継続的な評価か

これが決まってはじめて、次のような判断が可能になります。

  • 「本格的な無響室が必要」なのか
  • 「高性能な防音室(簡易無響室)で十分」なのか
  • 「あるいは無響箱のような別の構成が必要」なのか

つまり、「無響か防音か」は設計の“結果”であり、出発点ではないのです。

「無響室」という言葉に引きずられすぎないために

「無響室」という言葉には、どうしても完成形のイメージが伴います。

大きな空間、壁一面の吸音楔、特別な設備……。

しかし本質的には、無響室は「自由音場を成立させるための一つの構成」にすぎません。

目的が異なれば、必要な大きさも、吸音の考え方(BFWかグラスウールか)も、遮音の必要性も変わります。

これからの連載を通じて、皆さまが「最適な音の測り方」を見つけるためのお手伝いができれば嬉しいです。

次回予告

【Vol.2】 逆二乗則とK2から考える“測れる音場”の作り方

次回は、より専門的な視点に踏み込みます。

自由音場とは物理的に何なのか? そして、その空間が「測れる」と判断する根拠(逆二乗則、環境補正値 K2)はどこにあるのか。

設計や評価の現場で役立つ実践的な視点を解説します。

—— 深海ライラ

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