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ISO3745:2012を基準とした無響室設計法に対する現実と理想

2020/10/23

無響室の設計法は、国際規格ISO3745:2003(付属書K3)に示されています。(推奨)しかし、ISO3745:2012版では付属書Kが削除されています

では、今後ISO3745:2012を基準とした無響室の設計法、仕様はどうなっていくでしょうか?また、なぜそのように改訂されたのでしょうか?それに対する問題点は何でしょうか?

是非最後までお読み下さい。

ISO3745:2003とISO3745:2012の比較

まず改訂前と改訂後の比較を見てみましょう

ISO3745:2003ISO3745:2012
無響室の壁、天井面に施工する吸音材は対象の周波数で0.99以上の垂直入射吸音率とする。 該当記述が削除されました
空気層を含む吸音材(吸音クサビ)の長さはλ/4とする。 該当記述が削除されました

∴ISO 3745:2012では逆二乗則を満足すれば、吸音材の吸音率が多少悪くとも無響室として認められる。

無響室・半無響室の定義

日本工業規格「JIS Z 8732:2000(ISO/DIS 3745:2000)~音響パワーレベルの測定方法-無響室及び半無響室における精密測定方法」には無響室・半無響室が下記のように定義されています。(抜粋)

  • 無響室 → 「自由音場の得られる試験室」
  • 半無響室 → 「反射面上の自由音場の得られる試験室」
  • 自由音場 → 「境界面の影響を受けない均質等方媒質中の音場。実際には、対象周波数範囲にわたって境界面における反射が無視される音場」
  • 半自由音場 → 「無限大の剛壁面上の半空間における均質等方媒質中の音場」

※自由音場というのは、音が行きっぱなしで、帰ってこない空間です。

また、無響室は下記の逆二乗則を満足する空間であるということが記載されています。(自由音場≒逆二乗成立)

理想的逆二乗則からの測定音圧レベルの最大許容偏差(付属書表A.1)

試験室の種類 1/3オクターブバンド周波数Hz 許容偏差dB
無響室 ≤630 ±1.5
800~5000 ±1.0
≧6300 ±1.5
半無響室 ≤630 ±2.5
800~5000 ±2.0
≧6300 ±3.0

∴JIS Z 8732:2000では、逆二乗則を満足すれば、どのような吸音材を使用しようとも無響室として認められる。

無響室のあるべき姿

前項1・2の通り、ISO 3745:2012、JIS Z 8732において無響室は逆二乗則さえ満足すれば良いということがいえます。

無響室というのは、対象周波数に合わせた長い吸音クサビを設計することが一般的でしたが、今後は関連規格の改訂に合わせて、各無響室メーカーが独自の無響室を設計することになるでしょう。(例)吸音クサビの有無等

また、対象周波数の表現も、今までは吸音クサビ対象の「カットオフ周波数」という言葉が主に使われていましたが、今後は無響室対象の「測定可能下限周波数」という言葉を主とするのが好ましいと思われます。

規格改訂による問題

規格改訂により、いわば無響室設計法の自由度は大きく高まりました。また、無響室は逆二乗則を満足すれば良いということは、その測定方法についても自由であるといえます。(一部推奨はされています。)

しかし、自由というのは非常に怖いものです。メーカーによっては、これを利用し、無響室のスペックを設定する際に、誤解を招く表現(悪用)を行うことが予想できます。

例えば、測定可能下限周波数から特定の周波数までを保証範囲とし、それ以上の周波数については保証対象外とすることであったり、高周波騒音は吸音層λ/4以内で設計しているので無視出来る~逆二乗則測定値に対して、自社なりの補正をしたり(実際には逆二乗則を満足出来ていないが)、メーカー独自の測定方法により逆二乗則が成立させて、自社の逆二乗則の証明を出したり……等々です。

ここで一つのトリックを記載します。性能の高い無響室は、測定可能下限周波数が低いこと、つまり低周波域の吸音性の高さが求められます。ですが、実は吸音材の「特定周波数吸音の吸音率 “だけ” を高める」ことは難しくはありません。

詳しくは書けませんが、吸音材にあるものを付加する、吸音材の密度と吸音材の形状を工夫すること等です。
※参考:別記事「吸音材の厚さ=吸音材の性能!?」

この方法により、特定周波数の吸音率だけを高めると、その他の周波数帯の吸音率が低下します。 例えば、60Hz付近の吸音率だけを高めた吸音材を作りました。この吸音材は高周波域の吸音率が悪いです。

ですが、「この吸音材を無響室に使用すれば、測定可能下限周波数は60Hz以上になります。吸音率の悪い高周波域は無視出来ます。」と言ってしまえば、なぜ高周波域は無視出来るのか?ということに疑問がなければ、そのまま無響室の仕様として通ってしまいます。 こういうトリックがあります。

従来の設計法では、これらの誤魔化しは吸音材の規定によりカバー出来ていましたが、残念ながら事実としてあります。この事例として下記をお話します。

なぜ規格の改訂が行われたのか?

それでは、改訂によりこれらの問題が発生するのに、なぜ改訂したのでしょうか?その理由については、大きく下記2つの理由があると考えます。

無響室構築における関連技術の発展により、従来の設計法だけでは対応が困難となった点

国内外問わず、無響室に使用する吸音材(吸音クサビ等)は年々「薄型化」の傾向にあります。吸音材の吸音特性だけではなく、吸音材に付加する様々な応用技術が開発されており、単純に対象周波数に合わせた長さの吸音クサビを施工すれば良いという考えは古い考えといえます。

無響室メーカーの都合

ISO制定メンバーと特定の無響室メーカーとの関係性が影響しています。(この点については大きな声ではいえませんので、詳細は当社までお問い合わせ下さい。)

改訂後問題発生の実話

先程、改訂後による事態予想を述べましたが、残念ながら弊社はその中の一つ事態に遭遇したことがあります。

あるユーザーの依頼で、海外のとある無響室メーカー(名前は伏せます)が構築した無響室の逆二乗測定を当社が行いました。

なぜなら、一般的な無響室は、無響室に入室後、耳がキーンとなる浮遊感が伴う空間ですが、その無響室は全くそのような感覚はなかったため、ユーザー側が「本当に無響室としての性能を発揮しているのか」ということに疑問を抱き、測定をすることにしました。

当社による測定の結果、逆二乗則は成立していませんでした。特に高周波帯域の音は全く許容偏差内に収まっておらず、非常に不安定な計測データでした。

このような無響室で測った製品のデータはユーザーにとって何の意味もありません。弊社は同業者として、非常に残念に思います。

将来無響室業界への予想

なぜこのような嘆くことがあったでしょうか?

それは、無響室メーカーの提案をユーザーが受け入れてしまったことにあります。

また無響室を導入するユーザー側には正しい知識や判断力が不十分であったとも言えます。

決して責めるつもりはありませんが、無響室は高額な設備であり、ユーザー担当者は導入に関わる業務は生涯一回だけかもしれません。それで無響室に関して詳しい方は少ないと思われます。

さらに、無響室の自由音場が成立する逆二乗則の測定はほとんどメーカーが行っていますので、このISO3745:2012によれば、自社独自の測定方法や補正で成立させることにより、ユーザーに自由音場成立のデータは出せます。が、専門家(第三者)による測定には耐えられません。

国内外問わず、無響室メーカーは数多く存在します。そしてしばらくこのような問題は相次ぐでしょうが、いずれユーザーは気づき、無響室完成後は測定専門家に依頼して、しっかりした逆二乗則測定のデータをもらうことになるのではないかと予想しております。

そしてその後は、各社に信頼される測定専門会社が立ち上がることによって、このISO3745の改訂によって発生した無秩序な状況が落ち着き、全うな規則が新たに出来ることを願っています。

まとめ

今回はISO3745の改訂についてお話しました。

時代が進歩するにつれて、無響室に関する規定も時代に追いつくように進化していくと思いますが、無響室を定義する根本である逆二乗則は、現在のところ、時代の波に影響されない不変な真理だと思われます。

真理は結局真理で、人の事情などで曲がることはありません。

この真理をしっかり受け止め、当社では芯の曲がらない無響室を製作します。

参考文献:薮下満「遮音・吸音材料の開発、評価と騒音低減技術」 第4節:ISO3745に基づく無響室の設計法
(薮下満:当社技術顧問 YAB 建築・音響設計 代表取締役)

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