技術情報

塗らない、という選択

― 中東情勢下で見直す「塗装レス防音室・無響室」 ―

2026/05/28

「塗装は仕上げの一工程」では済まなくなった

無響室や防音室は、外側からは「ただの白い箱」「ただの灰色の箱」に見えます。しかし、その仕上げの色は、ほとんどの場合塗料によって作られています。鋼板に下塗り・中塗り・上塗りを施し、室内側は美観と防錆を兼ねた仕上げ塗装、室外側は外気環境に耐える塗装。こうした塗膜が、防音室の見た目と耐久性を支えてきました。

ところが2026年に入ってから、この「塗装する」という工程そのものが、防音室・無響室のコスト構造を揺るがす要因に変わりつつあります。背景には、中東情勢の悪化とそれに伴う石油化学原料の供給不安があります。

2026年、何が起きているのか

2026年2月28日、米国とイスラエルによる対イラン軍事行動を契機に、ホルムズ海峡の通航は大きく制約される事態となりました。資源エネルギー庁の公表資料によれば、日本は原油輸入の9割超を中東地域に依存しており、エネルギーだけでなく、石油化学原料の調達網そのものが揺らいだことが今回の事態の特徴です。

ナフサは原油を精製して得られる軽質石油製品で、シンナー・溶剤・樹脂・接着剤・断熱材などにつながる石油化学の基礎原料です。内閣官房資料によれば、日本のナフサ調達は2024年時点で中東が約4割を占め、加えて国産ナフサの原料原油も中東依存度が高いことから、ナフサのサプライチェーン全体が中東情勢の影響を受けやすい構造になっています。これが、塗料価格に直接効いてきました。

国内大手塗料メーカーの値上げ通知は、いずれも歴史的な水準です(各社公式発表および2026年前半の主要報道に基づく)。

日本ペイントシンナー製品を最大75%値上げ(2026年3月19日発注分より)
関西ペイントシンナー製品全般について50%以上の価格改定(2026年4月13日以降出荷分より)
エスケー化研水性15〜25%、溶剤20〜30%、粉体10〜15%(2026年5月11日出荷分より、溶剤主力品は4月21日より)

帝国データバンクが2026年4月3日〜7日に実施した調査(有効回答1,686社)では、中東情勢を背景とする原油価格高騰・供給不安について「マイナス影響がある」と回答した企業が96.6%に達しています。これは特定業界の話ではなく、製造業の前提条件そのものが揺れている状況です。

防音室・無響室における「塗装」の重み

一般の方には意外かもしれませんが、防音室・無響室は塗装の塊です。

  • 構造体となる鋼板の防錆塗装
  • 室内・室外双方の仕上げ塗装
  • 部材点数が多く、面積も大きい(壁・天井・床・扉・吸音くさび背面など)
  • 工場内での吹付塗装に加え、現場での補修塗装も発生する
  • 塗装ブース、乾燥、養生、検査と、塗装工程は時間とコストを多く消費する

塗料そのものの値上げに加え、シンナー類の高騰、希釈材の入手難、納期遅延。これらが工場の生産計画と納入工期の両方を直撃します。塗装は「仕上げの最後の一工程」ではなく、もはやコストとリードタイムの主要因の一つになりつつあります。

解決のひとつのかたち ― 塗装レス(高耐食性鋼板)

この状況に対して、ソノーラテクノロジーが従来から提案してきたアプローチのひとつが、高耐食性鋼板を主材料とした塗装レス構造です。

高耐食性鋼板(代表的には日本製鉄のZAM®、神戸製鋼所のKOBEMAG®など)は、亜鉛-6%アルミニウム-3%マグネシウムのめっき層を持つ溶融めっき鋼板で、メッキ段階で耐食性が確保されています(各メーカー公式資料に基づく)。性能の概要は次のとおりです。

耐食性溶融亜鉛めっき鋼板の10〜20倍、溶融亜鉛-5%アルミニウム合金めっき鋼板の5〜8倍(メーカー塩水噴霧試験結果)
端面処理切断端面においても、めっき層から溶け出したアルミニウム・マグネシウムを含む亜鉛系保護皮膜が端面部を覆い、優れた耐食性を発揮
加工性めっき層が硬く平滑で、プレス・曲げ加工に強い
導電性めっき表面にアルミニウムを含むため導電性に優れ、静電気が逃げやすい(クリーンルーム内設置でも有利)
施工性一般部では上塗り塗装を省略できる場合があり、塗装工程の削減に寄与

つまり、「鋼板そのものが防錆性能を内蔵している」ため、塗装工程を大幅に省略できるということです。塗装に依存しないことで、

  • 塗料・シンナー価格高騰の影響を受けにくい
  • 塗装工程ぶんの工期短縮が可能
  • VOC(揮発性有機化合物)排出が減り、環境面でも有利
  • 塗膜剥離・チョーキングといった経年劣化要因が構造的に減る

といったメリットが得られます。

留意点 ― 「塗装ゼロ」が万能ではない

公平を期して書くと、塗装レスにも条件はあります。

溶接部溶接によりめっき層が消失する部位は、Zn-Al系塗料などによる補修処理が必要(日本製鉄・神戸製鋼所いずれも公式に推奨)
加工条件による端面処理レーザー切断面など加工条件によっては端面処理が推奨される
材料単価一般に、通常の溶融亜鉛めっき鋼板に比べて材料単価は高くなる傾向がある(具体的な差額は板厚・めっき付着量・ロット・商流に依存)
意匠要件「特定の色に塗りたい」「コーポレートカラーに合わせたい」といった要件がある場合は、当然ながら塗装が必要

そのため、ソノーラテクノロジーでは、案件ごとに意匠要件・耐用年数・設置環境・コスト配分をうかがった上で、

  • 完全塗装レス構造
  • 部分塗装+塗装レスのハイブリッド構造
  • 従来通りの塗装仕上げ構造

の中から最適解をご提案しています。とくに昨今のように塗料の納期・価格が見通しづらい状況では、「塗装に依存しない構造を選択肢として持っておくこと」自体が、納期リスクとコストリスクの両方を下げる手段になります。

まとめ

中東情勢を起点とした石油化学原料の供給不安は、塗料・シンナーの価格と納期に、過去に例のないインパクトを与えています。防音室・無響室のように塗装比率が高い構造物にとって、これは設計と調達の前提を問い直す事象です。

塗装を「当たり前の仕上げ工程」として組み込み続けるのか、それとも塗装に依存しない構造を選ぶのか。ソノーラテクノロジーは、高耐食性鋼板を主材料とした塗装レス構造を含め、現在の市況に即した複数のアプローチをお客様と一緒に検討してまいります。

※ 本記事の市況情報・各社値上げ情報は2026年5月時点のものです。情勢の変化により、最新情報が異なる場合があります。

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