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なぜ低い音は遠くまで聞こえるのか?低周波音の特徴と距離減衰の誤解
2026/09/16


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なぜ低い音は遠くまで聞こえるのか?防音屋が解説する低周波音の特徴
工場の送風機、コンプレッサー、発電機、空調設備などから発生する騒音について、「近くではそれほど気にならないのに、離れた場所ではブーンという低い音だけが聞こえる」というご相談をいただくことがあります。
一般に「低い音は遠くまで届きやすい」と言われますが、この説明には少し注意が必要です。実は、音の基本的な距離減衰の式に、周波数は含まれていません。
では、なぜ実際には低い音ほど遠くで聞こえやすいのか。本記事では、距離減衰・大気吸収・回折という3つの観点から、低周波音の性質を整理します。
距離減衰の式に周波数は含まれない
まず基本から確認します。点音源から音が球面状に広がると考えた場合、距離による音圧レベルの減衰量は次の式で表されます。
ΔL = 20 log₁₀(r₂ / r₁)
ΔL:減衰量〔dB〕 r₁:基準となる距離〔m〕 r₂:求めたい距離〔m〕
例えば、音源から1mの位置で80dBだった音は、反射のない自由音場であれば、
| 音源からの距離 | 音圧レベル |
|---|---|
| 1m | 80dB |
| 2m | 約74dB |
| 4m | 約68dB |
| 8m | 約62dB |
と、距離が2倍になるごとに約6dB低下します。
注目していただきたいのは、”この式のどこにも周波数が入っていない” 点です。したがって、「低音は距離減衰しにくいから遠くまで聞こえる」という説明は、厳密には正しくありません。低い音が遠くで聞こえやすい理由は、距離減衰の式の外側にあります。
理由① 高い音ほど空気に吸収される(大気吸収)
実際の屋外では、距離による拡散だけでなく、空気そのものによる音の吸収が起こります。この「大気吸収」には周波数依存性があり、高い周波数ほど減衰が大きく、低い周波数ほど減衰が小さくなります。
例えば、機械から「キーン」という高い音と「ブーン」という低い音が同時に出ていた場合、音源から離れるにつれて高い音の成分は空気中で減衰していきます。その結果、遠方では低い周波数成分が相対的に残りやすくなります。
身近な例では、遠くの雷が「バリバリ」ではなく「ゴロゴロ」と低く聞こえるのも同じ現象です。近くで落ちた雷は高い成分を含む鋭い音に聞こえますが、遠くの雷は高い成分が空気に吸収され、低い成分だけが届いています。
理由② 低い音は障害物を回り込む(回折)
もう一つ重要なのが「回折」です。音は壁や建物などの障害物があっても、その縁を回り込んで伝わります。この回り込みは、波長が長い(=周波数が低い)音ほど起こりやすくなります。
音速を約340m/sとすると、各周波数の波長は次のとおりです。
| 周波数 | 波長 |
|---|---|
| 100Hz | 約3,400mm(3.4m) |
| 1,000Hz | 約340mm |
| 4,000Hz | 約85mm |
例えば高さ2m程度の防音壁を考えてみます。波長85mmの4,000Hzの音にとって、この壁は十分に大きな障害物です。一方、波長3.4mの100Hzの音から見れば、壁の高さは自分の波長より小さく、障害物として十分に機能しません。低音は壁の上部や側面から回り込んでしまいます。
防音壁を設置したのに「高い音は消えたのに低い音だけ残る」という現象が起こるのは、このためです。
なお、屋外の長距離伝搬では、風向きや気温の分布(昼夜の温度勾配)によって音の伝わり方が変わる「屈折」の影響も加わります。夜間や風下側で遠くの低い音が聞こえやすくなるのは、こうした気象条件も関係しています。
低周波騒音は防音も難しい
低周波音は遠方まで残りやすいだけでなく、対策の難易度も上がります。
吸音が効きにくい。多孔質系の吸音材は中高音域では効果を得やすい一方、低周波を十分に吸音するには、より大きな厚みや背後の空気層が必要になります。
遮音にも質量と剛性が要る。壁の遮音性能は基本的に質量則や剛性則に依存するため、低周波に対しては重量のある壁や強固な構造が必要になる傾向があります。
固体伝搬音の問題がある。工場設備では、空気を伝わる音だけでなく、機械の振動が床や建物構造を伝わって離れた場所で音になる「固体伝搬音」が問題となる場合もあります。
そのため、単純に吸音材を貼ったり防音壁を設置したりするだけでは解決しないケースも少なくありません。低周波騒音の対策では、周波数の特定(測定)と、伝搬経路の見極めが出発点になります。
では、低周波騒音をどう防音するか
ここからは当社のノウハウに関わる部分ですが、ヒントは前述した低周波音の特徴、「回折=音が回り込む性質」そのものにあります。サイレンサーや防音壁の構造の中に、あえて音の通り道(ルート)を設計として組み込む方法です。詳しくは、別の記事で改めてご紹介したいと思います。
低周波騒音・設備騒音でお困りの場合は、音響測定から対策のご提案まで一貫して対応いたします。お気軽にご相談ください。
よくあるご質問
Q. 低い音は距離減衰しにくいのですか?
A. いいえ。距離による拡散減衰(距離2倍で約6dB低下)は周波数によらず同じです。低い音が遠くまで聞こえるのは、大気吸収が小さいことと、障害物を回折で回り込みやすいことが主な理由です。
Q. 防音壁を設置すれば低周波騒音は解決しますか?
A. 高音域には有効ですが、低周波音は波長が長く壁を回り込むため、防音壁だけでは十分な効果が得られないことがあります。周波数と伝搬経路に応じた対策の組み合わせが必要です。
Q. 低周波音とはどのくらいの周波数を指しますか?
A. 日本では一般に100Hz以下の音を「低周波音」と呼び、そのうち20Hz以下は「超低周波音」と呼ばれます(環境省「低周波音問題対応の手引書」による区分)。
Q. まず何をすればよいですか?
A. 音響測定による現状把握をおすすめします。どの周波数の音が、どの経路(空気伝搬か固体伝搬か)で届いているのかが分かれば、過不足のない対策を選べます。
参考文献
- ISO 9613-1:1993 Acoustics — Attenuation of sound during propagation outdoors — Part 1: Calculation of the absorption of sound by the atmosphere
- ISO 9613-2:1996 Acoustics — Attenuation of sound during propagation outdoors — Part 2: General method of calculation
- 環境省「低周波音問題対応の手引書」(2004年)
- JIS Z 8731「環境騒音の表示・測定方法」
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