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「最大82%の音を吸収」「LL35」— 防音マット広告の数字の読み方

2026/08/18

「世界最高レベルの防音性」
「最大◯%の音を吸収するマット」
「遮音等級LL35を取得」

SNSをスクロールしていると、こうした防音商品である “防音カーペット” の広告が流れてきます。おしゃれな部屋の写真、子どもの足音に悩む親御さんのストーリー、そして景気のいい数字。防音を生業にしている人間としては、つい指が止まります。

これらの表示は、必ずしも嘘とは限りません。試験成績書に基づいた数字であることも多いでしょう。ただ、書かれている数字が意味するところと、買う人が期待していることの間には、しばしば大きなズレがあります

今回は、床の防音商品の広告に出てくる数字を、音響屋の目線で読み解いてみます。

その1:LLとLHは、まったく別の音の話

床の遮音性能を表すL値には、LLLHという2つの区分があります。

LL(軽量床衝撃音)スプーンや食器を落とした「カチャン」、椅子を引きずる音など、軽くて高い音
LH(重量床衝撃音)人が歩く、子どもが飛び跳ねる「ドスン」という重く低い音

そして重要なのが、カーペットやマットのようなクッション性のある床仕上げ材が効果を発揮するのは、主に軽量床衝撃音(LL)の方だという点です。重量床衝撃音は建物の構造——床スラブの厚さや剛性——が支配的で、表面に何かを敷いても大きくは改善しません。

ここでズレが生まれます。集合住宅の騒音トラブルで最も多い相談は「上の階の子どもが走り回る音」ですが、これは典型的な重量床衝撃音です。ところが広告に載っているのは「LL35」「ΔLL-◯」といった軽量側の数字ばかり、ということが珍しくありません。

LHの数字が書かれていない商品は、LHの性能を主張していない、と読むのが正しい読み方です。

その2:床材の等級は「あなたの部屋の等級」ではない

もうひとつ、混同されやすいのが**「床材単体の性能」と「建物としての性能」**の違いです。

かつては床材の性能も「LL-45」「LL-35」という推定L等級で表示されていました。しかし、実際の建物の床衝撃音遮断性能は、床スラブの厚さ、部屋の大きさや形、天井の仕様などによって変わります。そのため床材の等級と実際の空間性能に差が生じてしまうこと、さらにメーカーごとに試験条件が違って製品同士を比較できないことが問題になりました。

そこで2007年のJIS改正を機に、床材3工業会からの要請を受けて日本建築総合試験所が検討委員会を設置し、2008年4月に「床材の床衝撃音低減性能の等級表記指針」が策定されます。これにより床材の性能表示は、推定L等級から “ΔL等級(床衝撃音レベル低減量)“ へ移行しました。

つまり「LL35」という床材の表示は、その商品を敷けばあなたの部屋がLL-35になる、という意味ではありません。試験室の標準的な床(厚さ150mmのコンクリートスラブ)で測った参考値であって、木造アパートに敷けば結果はまったく違います。だからこそ業界は、この紛らわしい表示をやめてΔL等級に切り替えたわけです。

このズレは床材に限ったことではありません。壁材でも同じようなズレが起きています。

なお、指針で定められているΔL等級は、軽量床衝撃音がΔLL-1〜5の5段階、重量床衝撃音がΔLH-1〜4の4段階です。数字が大きいほど高性能で、それ以上の等級は定義されていません。等級表記を見かけたら、この範囲に収まっているか、そしてLLとLHのどちらの話をしているかを確かめてみてください。

その3:「◯%の音を吸収」の%は、何の%なのか

個人的に最も気になるのが、この「%」表示です。

音の大きさはデシベル(dB)という対数の単位で表されます。対数の世界では、算数の常識が通用しません。50dBの機械を2台並べても100dBにはならず、約53dBにしかならない。これはデシベルという単位の定義そのものによるものです。

ということは、dBの数値をそのまま割り算して「◯%減った」と表現しても、物理的な意味はほとんどありません。仮に60dBが50dBに下がったとして、「50÷60だから約17%減」と言えるかというと、言えないのです。dBは基準を決めて対数を取った相対値なので、比を取っても音のエネルギーの比にも、音圧の比にも、聴感上の大きさの比にも対応しません。

ちなみにこの場合、音のエネルギーで見れば10dBの低減は実に90%減で、聴感上は「半分くらいの音量になった」と感じる変化です。%で表すなら本来こちらの土俵ですが、いずれにせよ「どの周波数で」「何を分母にした%なのか」が明記されていない%表示は、そのままの意味では受け取れません。

広告に小さく添えられた注釈「※特定周波数帯における測定値」「※dB値の除算結果」といった但し書きこそが、その数字の正体を教えてくれます。数字そのものより、注釈を読む方が有益です。

(デシベルの計算については、当サイトの[デシベルの足し算の記事]でも解説しています)

したがって、防音専門会社は「%」を使いません。

その4:「世界最高レベル」は誰が決めたのか

最後に、表示のルールの話も少しだけ。

景品表示法では、実際のものより著しく優良であると一般消費者に誤認させる表示(優良誤認表示)が禁止されています。「世界最高レベル」「No.1」といった表現を使う場合、事業者はその主張を裏付ける客観的で合理的な根拠を、比較対象の範囲や調査方法も含めて示せる必要があります。

「世界最高レベル」と書かれていたら、何と比較して、どの条件で、誰が測ったのかを探してみる。根拠が明示されていれば信頼できますし、探しても見つからないなら、その数字との距離の取り方を考えた方がいいでしょう。

敷く前に、まず音の正体を知る

念のため申し上げると、防音マットや防音カーペットが無意味だと言いたいわけではありません。軽量床衝撃音への効果は確かにありますし、手軽さやクッション性という価値もあります。

問題は、自分が悩んでいる音の種類と、商品が対策している音の種類が一致しているかです。ドスンという重量床衝撃音に悩んでいる人が、軽量床衝撃音用の数字を見て購入すれば、「敷いたのに全然変わらない」という結果になります。これは商品の問題というより、選び方の問題です。

当サイトでは以前にも、この種の「効きそうで効かない」対策について書いています。あわせてどうぞ。

当社は業務用の無響室・防音室・騒音対策を専門としており、住宅向けの防音マットは扱っておりません。それでも、音の伝わり方を測って切り分けることの大切さは、工場も集合住宅も変わりません。何を測った数字なのかを確かめること・・それが、防音でお金を無駄にしない一番の近道だと考えています。

参考文献

  • 一般財団法人 日本建築総合試験所(GBRC)「床材の床衝撃音低減性能の等級表記方法(ΔL等級)について」https://www.gbrc.or.jp/test_research/acoustic/sound02/
  • 「床材の床衝撃音低減性能の等級表記指針」(2008年4月策定)
  • JIS A 1440「建築用構造部材の床衝撃音レベル低減量の測定方法」
  • JIS A 1418-1/1418-2「建築物の床衝撃音遮断性能の測定方法」
  • 消費者庁「不当景品類及び不当表示防止法」第5条(不当な表示の禁止)

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