技術情報

音響性能保証制度の未来

2026/06/14

「やってみなければ分からない」音響設備から、「性能を証明する」音響設備へ

無響室、防音室、無響箱、防音ブース、音響試験室は、単なる箱や部屋ではありません。
製品開発、品質保証、異音検査、音響パワー測定、研究評価、量産検査などに使われる、重要な音響測定インフラです。

そのため、本来であれば、導入前に求める性能を明確にし、設計段階で性能を見込み、完成後には実測によって性能を確認する必要があります。

しかし、音響設備の業界では、長い間、性能保証が当たり前ではありませんでした。

  • 「実際につくってみないと分からない」
  • 「設置環境によって変わるので保証できない」
  • 「性能が出なかった場合は、使い方や建物側の問題」
  • 「測定していないので、どこが悪いか分からない」

このような曖昧な状態のまま、防音室や無響室が納入されてしまうケースがあります。

結果として、ユーザーが高額な費用を支払ったにもかかわらず、期待した遮音性能や暗騒音性能、吸音性能が得られず、原因も責任範囲も曖昧なまま、泣き寝入りせざるを得ないことがあります。

ソノーラが目指す音響性能保証制度の未来は、こうした状況をなくすことです。

音響性能保証を、特別なオプションではなく、音響設備メーカーとして当然の責任にすること。
それが、これからの音響設備に必要な考え方です。

音響性能保証がないと、何が起こるのか

音響性能保証がない設備では、問題が起きたときに責任の所在が曖昧になります。

たとえば、防音室を導入したにもかかわらず、外部騒音が室内に入ってしまう。
無響箱を導入したのに、測定値が安定しない。
無響室をつくったのに、周波数特性に不自然なピークやディップが出る。

このような場合、性能保証がなければ、ユーザー側は次のような状況に置かれます。

起こり得る問題ユーザー側の負担
遮音性能が不足している追加対策費用を負担する可能性がある
暗騒音が高い測定に使えず、設備投資が無駄になる
反射音が多い測定値の信頼性が下がる
原因が分からない部屋、測定器、治具、建屋の切り分けができない
責任範囲が曖昧メーカー側に対応を求めにくい
再施工が必要コスト、時間、業務停止が発生する
記録がない顧客説明や社内説明が難しい

音響設備は、完成した見た目だけでは性能を判断できません。

遮音性能、暗騒音、吸音性能、自由音場性能、測定再現性は、実測しなければ確認できない部分があります。
だからこそ、性能保証のない音響設備は、ユーザーにとって大きなリスクになります。

ソノーラ太郎物語:音響性能を考えずにつくると何が起こるのか

この考え方を分かりやすく伝える事例として、当社技術情報では 「ソノーラ太郎物語」 を公開しています。

「ソノーラ太郎物語」では、防音壁を設置したにもかかわらず、音の反射や回り込みを十分に考慮しなかったことで、かえって別の場所の騒音問題が大きくなってしまう事例を紹介しています。音は直進するだけでなく、反射し、回り込み、逃げ場を探すため、単に壁を立てるだけでは対策にならない場合があります。

この話は、防音壁だけでなく、防音室、無響室、無響箱にも通じます。

  • 「専門会社がつくったのだから大丈夫だろう」
  • 「高額な設備だから性能も出ているはずだろう」
  • 「防音室と書いてあるから静かになるだろう」

このような期待だけで導入し、保証値や測定方法、責任範囲を明確にしないまま進めてしまうと、完成後に性能不足が分かっても、原因調査や追加対策の費用負担が曖昧になる可能性があります。

だからこそ、音響設備では、事前に性能目標を設定し、完成後に実測で確認し、保証範囲を明確にすることが重要です。

なぜ、これまで購入者側がリスクを負っていたのか

音響設備は、一般的な建築工事と異なり、完成後の性能が非常に重要です。

しかし、従来は次のような理由で、性能保証が明確にされないケースがありました。

理由問題点
音響性能は設置環境に左右されるだからこそ事前条件と保証範囲を明確にすべき
測定には専門知識が必要専門会社であれば測定・説明できるべき
建築工事と音響工事の責任範囲が分かれる取り合い条件を設計段階で整理すべき
保証値を出すとリスクになるリスクを購入者に転嫁している可能性がある
完成後に測定しない本当に性能が出ているか確認できない

つまり、性能保証をしないということは、メーカー側のリスクを減らす一方で、購入者側に大きなリスクを残すことになります。

音響性能が必要だから防音室や無響室を購入する。
それにもかかわらず、その音響性能を保証しない。

これは、本来あるべき専門会社の姿とは言えません。

音響性能保証制度は、ソノーラが業界に先駆けて始めた考え方

ソノーラは、音響性能保証制度を業界に先駆けて導入した企業として、自社サイトで “First penguin in the industry to introduce Acoustic Performance Guarantee System” と表現しています。

ソノーラの製品保証では、ユーザーまたは施工者と設定した遮音値や製品内外の音響測定値などの音響性能基準を保証し、出荷前または納入後に保証性能値の検証測定を行い、音響測定データを提供すると説明されています。

これは単なる営業上の表現ではありません。

音響設備メーカーとして、納入した製品の性能に責任を持つという考え方です。

さらにソノーラのFAQでは、性能保証を不要とする案件について “Projects without performance guarantees are not our business.” と明記されています。つまり、性能保証を外して安くするという考え方ではなく、音響性能を保証すること自体を事業の前提としていることが分かります。

この考え方は非常に重要です。

なぜなら、音響設備は「完成したから終わり」ではなく、本当に使える性能が出ていることを確認して初めて完成だからです。

性能保証のない会社は、専門会社と言えるのか

音響設備を専門に扱う会社であれば、本来、以下のことを説明できる必要があります。

  • どの性能を保証するのか
  • どの条件で保証するのか
  • どの測定方法で確認するのか
  • 測定値が未達の場合にどう対応するのか
  • 建屋側、空調側、設備側との責任範囲をどう整理するのか
  • 納入後に性能をどう確認するのか
  • 移設・改造後に再測定できるのか

これらを明確にできないまま「防音できます」「静かになります」「測定に使えます」と説明するだけでは、専門会社として十分とは言えません。

もちろん、すべての案件であらゆる性能を無条件に保証できるわけではありません。
建屋条件、外部騒音、床振動、空調、測定対象、運用条件によって、保証できる範囲は変わります。

だからこそ、専門会社であれば、保証できる範囲と保証できない範囲を明確にし、必要な前提条件を整理し、実測によって確認する必要があります。

「保証できない」のではなく、何を、どの条件で、どこまで保証するかを設計する。

これが、音響専門会社の責任です。

技術的に見ても、実測による性能確認は不可欠

無響室や防音室の性能は、吸音材や遮音パネルの性能だけで決まるものではありません。

同じ材料を使っていても、施工精度、パネル接合部、扉の気密性、床との取り合い、空調経路、ケーブル貫通部、建屋側の騒音、床振動、測定治具の反射によって、最終的な音響性能は変わります。

影響要因性能への影響
扉の気密性遮音性能や室内暗騒音に影響
パネル接合部漏音、振動伝搬、遮音低下の原因になる
ケーブル・配管貫通部小さな隙間でも遮音性能を低下させる
空調・換気経路暗騒音や外部騒音侵入の原因になる
床振動低周波騒音や測定ばらつきにつながる
室内治具反射、回折、共振の原因になる
建屋側の騒音室内暗騒音に影響する

たとえば、無響室・半無響室では、自由音場または反射面上の自由音場として成立しているかが重要です。ISO 3745:2012は、無響室・半無響室を用いた音圧法による音響パワーレベルの精密測定方法を規定する国際規格であり、製品の音響性能を信頼性高く評価するための基盤になります。

また、音響パワー測定では、暗騒音補正や環境補正が測定結果に影響します。K2は試験環境が自由音場にどれだけ近いかを示す重要な補正値であり、ISO 3745対応の無響室では、厳密な自由音場性能の確認が重要になります。

このように、音響性能保証制度の技術的な意味は、単に「材料仕様を保証する」ことではありません。
完成した音響空間が、実際に必要な測定環境として成立しているかを、実測で確認することにあります。

音響性能保証制度が守るもの

音響性能保証制度が守るのは、単に防音室や無響室の性能だけではありません。

本当に守っているのは、ユーザーの投資、測定結果の信頼性、開発判断、品質保証、そして社内外への説明責任です。

音響性能保証が守るもの内容
設備投資高額な音響設備が無駄になるリスクを減らす
測定信頼性測定値が環境要因で乱れるリスクを減らす
品質保証製品評価や出荷判断の根拠を支える
開発判断対策効果や設計変更の評価を安定させる
社内説明投資効果や設備性能を説明しやすくする
顧客説明測定環境の信頼性を示しやすくする
長期運用点検、改造、移設後の再確認につなげられる

音響性能保証制度は、ユーザーを「泣き寝入り」させないための制度です。

これからの未来:音響性能保証を当たり前にする

音響性能保証制度の未来は、特別な制度をさらに特別にすることではありません。

むしろ逆です。

音響性能保証を、音響設備業界の当たり前にすること。
それが未来です。

無響室をつくるなら、自由音場性能や暗騒音を確認する。
防音室をつくるなら、遮音性能と室内騒音を確認する。
無響箱をつくるなら、遮音性能、内部反射、測定位置の条件を確認する。
量産ライン用なら、箱単体だけでなく、搬送、治具、測定器、判定条件まで確認する。

これらを曖昧にせず、事前に合意し、完成後に測定し、記録として残す。

これが、これからの音響設備の標準になるべきです。

これまでこれから
やってみなければ分からない事前に性能目標を設定する
性能未達の責任が曖昧保証範囲と責任範囲を明確にする
測定しない完成後に実測で確認する
報告書がない測定データを残す
購入者側がリスクを負う専門会社が性能に責任を持つ
泣き寝入りが起こる未達時に対策する
保証はオプション保証は専門会社の基本責任

ソノーラが目指す未来は、音響性能保証を業界標準にすることです。

その先にある性能マネジメント

音響性能保証制度が当たり前になると、次の段階として重要になるのが、運用中の性能マネジメントです。

納入時に性能を確認して終わりではありません。
防音室や無響室は、長く使う設備です。

長く使う中で、扉パッキンの劣化、空調機器の更新、ケーブル貫通部の追加、治具変更、周辺設備の増設、工場内騒音の変化、移設、改造などが起こります。

そのたびに、必要に応じて性能を再確認することが重要です。

タイミング確認すべき内容
納入時保証性能値を満たしているか
定期点検時遮音、暗騒音、空調音の変化
移設後新しい設置環境で性能が成立しているか
改造後開口部、扉、吸音仕様変更の影響
設備更新後空調、搬送装置、治具の影響
測定不具合発生時部屋、測定器、治具、外部騒音の切り分け

音響性能保証制度の未来は、「納入時の保証」から「音響測定インフラの性能マネジメント」へ進化していきます。

移設・改造後にも、性能確認が必要になる

ソノーラの組立式無響室、組立式防音室、無響箱は、移設や改造を検討しやすい構造です。

これは、音響設備を長く使い続けるうえで大きな価値があります。
しかし、移設や改造を行った場合には、音響性能の再確認が必要です。

なぜなら、以下の条件が変わることで、性能に影響が出る可能性があるためです。

場面必要な確認
工場内での移設周辺騒音、床振動、遮音性能、暗騒音
別拠点への移設建屋条件、床構造、外部騒音、空調条件
室寸法の変更反射、定在波、測定距離、自由音場性能
扉・開口部の追加漏音、遮音性能、気密性
吸音材の変更反射特性、残響、測定再現性
自動化設備の追加駆動音、振動、配線・配管貫通部
治具変更反射、共振、固定再現性、固体伝搬音

移設・改造できることは、サステナブルな設備運用にとって大きな利点です。
しかし、その価値を最大化するには、移設後・改造後にも性能を確認し、必要に応じて調整する仕組みが必要です。

ソノーラが果たすべき役割

ソノーラは、音響性能保証制度を業界に先駆けて導入してきました。

これからの役割は、その制度をソノーラだけの強みにとどめることではありません。

音響設備を導入するなら、性能を確認するのが当たり前。
性能未達なら、原因を調べ、対策するのが当たり前。
保証範囲を明確にし、測定データを残すのが当たり前。

その文化を業界全体に広げていくことです。

ユーザーが高額な設備投資をしたにもかかわらず、期待した性能が得られず、原因も責任も曖昧なまま泣き寝入りする。
そのようなケースをなくすこと。

これが、音響性能保証制度の本当の未来です。

まとめ

音響性能保証制度は、単なる保証書ではありません。

それは、音響設備メーカーが、納入した製品の性能に責任を持つという姿勢です。
そして、ユーザーが安心して測定・試験・検査を行うための仕組みです。

性能保証がない音響設備では、問題が起きたときに責任範囲が曖昧になり、購入者側がリスクを負うことになります。
高額な費用を支払ったにもかかわらず、期待した性能が得られず、追加対策や泣き寝入りにつながる可能性があります。

ソノーラは、音響性能保証制度を業界に先駆けて導入し、検証測定によって保証値を裏付ける姿勢を示してきました。

これからの未来は、音響性能保証を特別な制度ではなく、業界の当たり前にすることです。

無響室、防音室、無響箱をつくるなら、性能を設計し、測定し、確認し、必要に応じて対策する。
その責任を果たしてこそ、音響専門会社と呼べるのだと、ソノーラは考えています。

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