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タイヤ騒音の屋内試験に必要な半無響室とは|ISO 20908とISO 362-3の違い
2026/10/28


- 無響室・防音室のソノーラ
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はじめに|最初に決めるのは「何を試験室に入れるか」
2023年に発行されたISO 20908:2023により、タイヤの騒音を屋内の半無響室で評価する方法が規格化されました。規格の概要は「ISO 20908:2023 – Tyre sound emission test」で紹介しています。
この記事を受けて、「では実際に、どのような半無響室を用意すればよいのか」というご相談をいただくことがあります。答えを出すために、最初に確認するのは一点です。試験室に入れるのは実車なのか、タイヤ単体なのか。
実車を走らせるならISO 362-3:2022、タイヤ単体をドラムで回すならISO 20908:2023が基本の規格になり、部屋の大きさも、必要な設備も大きく変わります。本記事では、この2つの入口から、必要な半無響室の条件を整理します。
1. 2つの規格は「屋外試験を屋内で再現する」ための規格
タイヤや車両の騒音は、もともと屋外のテストコースで測定してきました。車両の加速走行騒音はISO 362-1、タイヤの惰行(コーストバイ)騒音はISO 13325が屋外の測定方法です。どちらも、走行路の中心線から7.5 m離れた高さ1.2 mの位置にマイクロホンを置き、通過する音を測ります。
屋外試験は天候や気温、風に左右され、試験できる日が限られます。そこで、半無響室の中で屋外と同じ結果を得るために作られたのが、ISO 362-3とISO 20908です。どちらの規格も、屋外の「反射面(路面)の上に広がる開けた空間」と同じ音の伝わり方を、半無響室で再現することを求めています。

| 項目 | 実車で試験する | タイヤ単体で試験する |
|---|---|---|
| 屋内の規格 | ISO 362-3:2022 | ISO 20908:2023 |
| 対応する屋外の規格 | ISO 362-1(加速走行騒音) | ISO 13325:2019(タイヤのコーストバイ騒音) |
| 試験対象 | M・Nカテゴリの車両(乗用車、バス、トラックなど) | 乗用車用・小型商用車用のタイヤ |
| 走行の再現方法 | シャシーダイナモメーターのローラー上で車両を走らせる | 回転するドラムにタイヤを押し当てて転がす(駆動しない自由転動) |
| マイクロホンまでの距離 | 車両中心線から7.5 m。短い距離で測って補正することは認められない | 遠方音場に入る距離で測り、基準距離7.5 mへ補正する |
| 部屋の大きさを決める主な要素 | 計測区間20 m、車両の長さ、7.5 m、吸音層、カットオフ周波数 | マイクロホンアレイの距離と長さ、ドラム試験機の大きさ、カットオフ周波数 |
2. 入口A:実車で試験する場合(ISO 362-3)
ISO 362-3は、M・Nカテゴリの道路車両を、半無響室に設置したシャシーダイナモメーター上で走らせ、屋外の加速走行騒音試験(ISO 362-1)と相関のとれた結果を得るための規格です。
部屋の長さと幅
ISO 362-3は、部屋の最小長さの推奨値を、次の要素の合計として示しています。
- 屋外試験の計測区間に相当する20 m
- 試験する車両の長さ(M1、3.5 t以下のM2、N1は最長の車両の長さ。3.5 tを超えるM2、M3、N2、N3は5 m)
- 両側の吸音層の厚さ
- 両端のマイクロホンから吸音面までに確保する、カットオフ周波数の1/4波長の距離(両側分)
幅については、車両の中心線からマイクロホン列までを必ず7.5 mとすることが定められています。片側だけで測る施設か、両側で測る施設かによって、必要な幅が変わります。
たとえば、カットオフ周波数を100 Hz(1/4波長は約0.86 m)、車両の長さを5 m、吸音層の厚さを0.6 mと仮定すると、部屋の長さはおよそ20+5+0.6×2+0.86×2=約27.9 mになります。両側で測る場合の幅は、7.5 mの両側に吸音層と1/4波長を加えて約17.9 mが目安です(車両の幅などに関わる項は省略した概算です)。規格は、計測区間と車両長の合計を超える範囲を測る場合には、マイクロホンの追加や信号処理で対応することも定めています。
実車ならではの設備
| シャシーダイナモメーター | ローラーを床に埋め込むためのピットが必要です。ローラー自体や駆動系から出る音が、測定の暗騒音にならないようにします。 |
|---|---|
| 排気ガスの処理と冷却 | エンジン車を室内で走らせるため、排気の導出と換気、車両を冷やす送風が必要です。ISO 362-3も、冷却・換気・室温・排気ガス処理を試験室の条件として扱っています。 |
| タイヤ騒音の扱い | ローラーの表面はテストコースの路面とは違うため、タイヤと路面から出る音は、パワートレインの音とは分けて扱います。ISO 362-3では、室内でタイヤ/路面騒音を求める方法(附属書B、規定)と、屋外で得たタイヤ/路面騒音のデータを使う方法(附属書D、参考)が示されています。 |
当社の屋内パスバイ用半無響室の例では、内寸W20 m×L25 m×H7 m、測定可能な下限周波数100 Hz、暗騒音20dB(A)以下の仕様を標準として設計していますが、前述の通り、片側で計測を行うケースや設置場所のスペース制限等を加味して柔軟に対応しています。
3. 入口B:タイヤ単体で試験する場合(ISO 20908)
ISO 20908は、回転ドラムとタイヤを組み合わせた試験装置(リグ)を半無響室に設置し、駆動トルクをかけない自由転動の状態でタイヤ/路面騒音を測る方法です。目的は、屋外のコーストバイ試験(ISO 13325)と相関のとれた結果を室内で得ることです。対象は乗用車用と小型商用車用のタイヤで、駆動トルクをかけたタイヤの騒音や、特定の場所の交通騒音の評価には使わないとされています。
部屋の大きさを決める要素
ISO 20908では、マイクロホンの直線アレイをタイヤから距離yarrayの位置に並べます。この距離は、すべてのマイクロホンが遠方音場に入るように選び、測定値を屋外の基準距離7.5 mへ補正します。マイクロホンの高さは、屋外の1.2 m/7.5 mの比率に合わせて決めます(z=1.2×yarray/7.5)。円形のアレイを使う方法も規定されています。

7.5 mを部屋の中で確保しなければならないISO 362-3と違い、アレイの距離を短く設定できるため、部屋の大きさは、選んだアレイ距離とアレイの長さ、ドラム試験機の寸法、カットオフ周波数で決まります。ただし、マイクロホンは最も低い測定周波数の1/4波長以上、壁から離す必要があります。
タイヤ単体ならではの条件
| 自由音場の検証 | 音源の中心からマイクロホンへの直線上と、アレイ全体の両方で、逆二乗則が成り立つことを確かめます。検証方法として、ISO 26101-1(自由音場の適格性確認)とISO 3745が引用されています。 |
|---|---|
| ドラム | ドラムの直径、幅、床面からの高さ、回転速度、表面が規定項目になっています。表面には、テストコースの路面に近い性状を再現します。 |
| ドラム試験機の騒音 | ドラムの駆動モーターや軸受の音は、タイヤの音を測るうえでは暗騒音になります。試験機を含めた暗騒音の確認が必要です。 |
| 温度 | タイヤの騒音は温度で変わるため、室温を管理し、気温をアレイの高さ以下、アレイの近くで測ります。室温は23℃±3℃の精度で求められ、測定に用いるタイヤも試験前に同様の温度帯での管理が必要になります。 |
| 屋外試験との対応づけ | 同じタイヤを屋外(ISO 13325)でも測り、回帰直線で室内と屋外の結果を対応づけます。試験室の結果が時間とともにずれていないかの確認も規定されています。 |
4. どちらの半無響室を選ぶか
| 目的 | 入口 | 半無響室のイメージ |
|---|---|---|
| 完成車の加速走行騒音を開発・評価したい | 実車(ISO 362-3) | 長さ・幅とも20 m級。シャシーダイナモメーター、排気処理、冷却設備を含む大規模な施設 |
| タイヤの騒音を開発・比較したい | タイヤ単体(ISO 20908) | ドラム試験機を中心に、アレイ距離に合わせて大きさを決める。実車用より小さくできることが多い |
| 車両とタイヤの両方を室内で評価したい | 両方 | 実車用の半無響室でタイヤ/路面騒音を室内で求める方法(ISO 362-3 附属書B)を使うか、タイヤ単体の試験室を別に持つかを検討する |
どちらの入口でも、部屋のサイズ、性能、付帯設備の検討が重要なポイントになります。実施したい測定に対して部屋のサイズは十分なのか、部屋単体での暗騒音の低減も重要ですが内部に存在する音源(シャシダイ、リグなど)を含めた暗騒音の検討ができているのか、それらの設備や空調を含めて過不足のない環境となっているのかといった複合的な要素を検討する必要があります。
5. 半無響室の性能を確かめる方法
ISO 362-3とISO 20908は、どちらも「屋外と同じ伝搬特性」を求めています。この条件を満たしているかは、音源からマイクロホンに向かって距離を変えながら音圧レベルを測り、逆二乗則(距離が2倍になると6 dB下がる)からのずれを確認することで評価します。方法はISO 26101-1や、ISO 3745:2012(追補1:2017を含む)の附属書に規定されています。
当社では、設計段階から測定範囲と下限周波数を設定し、完成後に逆二乗則の検証を行って性能を確認しています。
6. よくある質問
Q. 実車用の半無響室で、タイヤ単体の試験もできますか?
ドラム試験機を設置でき、ISO 20908の自由音場の条件とアレイ配置を満たせれば可能です。ただし、シャシーダイナモメーターのピットや排気設備との配置の両立を、設計段階で検討する必要があります。
Q. タイヤ単体の試験室なら、7.5 mの距離はいらないのですか?
ISO 20908では、遠方音場に入る距離で測り、7.5 mへ距離補正をします。この手法は、7.5mの測定距離を確保できれば補正が不要という単純なものではありません。最終目的は、法規基準である遠方音場(7.5m地点・平坦路)での騒音値を求めることです。しかし、室内設備で7.5m地点の直接測定を行うと、付帯設備(モーター等)の騒音によりS/N比が悪化するため実用的ではありません。そのため、S/N比が確保でき、かつ遠方音場として成立するタイヤ近傍にマイクアレイを配置して測定を行います。その取得データを用いた補正計算によって、**「距離の減衰」と「ドラム曲率の影響」**をシミュレーションすることで、付帯設備騒音を排除した7.5m・平坦路での純粋なタイヤ騒音を算出する測定手法となっています。7.5 m距離の確保は必須ではないため、7.5m地点での計測は計算アルゴリズムの検証や官能評価といった法規基準とは別の評価の場合に必要です。
Q. 屋外試験はもう必要ないのですか?
ISO 20908では、室内の結果を屋外試験(ISO 13325)と対応づける手順が定められています。屋外試験が完全に不要になるわけではありませんが、天候に左右されない室内試験で、開発中の評価を効率よく回せるようになります。
まとめ
タイヤ騒音の屋内試験で必要な半無響室は、「実車」と「タイヤ単体」のどちらを入れるかで大きく変わります。実車ならISO 362-3に沿って7.5 mの距離と20 mの計測区間を部屋の中に収める大規模な施設が、タイヤ単体ならISO 20908に沿ってドラム試験機とアレイ距離に合わせた施設が基本になります。どちらの場合も、測りたい周波数範囲と暗騒音の目標を先に決めることが、部屋の大きさとコストを決める出発点です。
ソノーラテクノロジーでは、試験対象と規格、測定範囲をうかがったうえで、半無響室の寸法・吸音仕様・付帯設備をご提案しています。
関連情報
- 【ISO20908:2023】屋内における車両用タイヤの騒音試験方法について
- 【自由音場・半自由音場】無響室と半無響室の概要や特性・測定方法の違いを解説
- 組立式半無響室
- 【無響室の付帯設備】電気・空調・測定機器等のオプション設備について
参考文献
- ISO 20908:2023, Tyre sound emission test – Methods of drum. ISO
- ISO 362-3:2022, Acoustics – Measurement of noise emitted by accelerating road vehicles – Engineering method – Part 3: Indoor testing M and N categories.
- ISO 13325:2019, Tyres – Coast-by methods for measurement of tyre-to-road sound emission.
- ISO 10844:2021, Acoustics – Specification of test tracks for measuring sound emitted by road vehicles and their tyres.
- ISO 26101-1:2021, Acoustics – Test methods for the qualification of the acoustic environment – Part 1: Qualification of free-field environments.
- ISO 3745:2012/Amd 1:2017, Acoustics – Determination of sound power levels and sound energy levels of noise sources using sound pressure – Precision methods for anechoic rooms and hemi-anechoic rooms.
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